〈普通〉とは何か? 『コンビニ人間』(著・村田沙耶香)を読んで思ったこと

本格的な〈読書〉をはじめて
10年経ちました

私は勉強が苦手でしたが、小さな頃からずっと本に親しんできました。小学生頃に母が私に、寝る前には本を読むといいと教えてくれましたので、以来しばらくは寝る前は本を読む習慣ができました。

とはいえ、私は読書好きだった訳ではなく、単に寝る前に本を見る癖がついただけに過ぎず、内容は漫画や雑誌ばかり。他には母に買い与えられた伝記や童話を何度も読んでいました。やがて中学生になると漫画しか読まなくなります。字を沢山読み続けることは苦手で、小説なんかも、なんだか難しいものだなと思い、ほとんど読みませんでした。

私が「小説を読まなければ!」と思い立ったのは24歳の時でした。私の20代の全ては、自分探しの時間に費やしてしまいました。

何かをしたい。でも、何をしたらよいのかが分からない。

思えば学校の推薦図書とか一つも読んだことが無い。「自分は世間知らずだと思ってはいたけど、それを放置したのがいけなかった。」「この世の中のことを、社会のことをきちんと知らなければならない。」

そうだ、大学で思いっきり何かを勉強してみよう。

そこから、夏目漱石、芥川龍之介、太宰治、川端康成、三島由紀夫など、有名で知っていても読んだことがない小説家の作品を猛烈な勢いで読むことになりました。今思えば我のことながら「何で?」と突っ込みたくなる行動なのですが、とにかく小説、古典、高校の歴史教科書、船井幸雄氏のトンデモ本と、手あたり次第読みたい本は何でも読んでいきました。とにかく知識を貪り尽したいという衝動に駆られた行動だったように思います。

まっとうな読書をしてこなかった私にとって、がんばって字をひたすら読んで得られる読書世界の体験は感動的でした。

「人間ってみんなこんなにもとあれこれ考えて生きているのだな。しかもわざわざ口では説明しないような心のなかに思うことを、細やかに文字に表現してきた人が昔からいたなんて。」

これが文学との出会いでした。「人間とは何か?」これが文学のテーマだといいます、つまり「人間のことを文字から学ぶ」ということですね。

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コンビニ人間

表題に挙げました『コンビニ人間』という小説を知ったきっかけは、私が車を運転中している時に聴いていたラジオ番組に、作者の村田沙耶香さんが出演されていたことによります。

村田さんはずっとコンビニでアルバイトを経験してこられ、なんと芥川賞作家になった今でも週に2~3回はアルバイトを続けていらっしゃるそうです。何でもコンビニで働かないと小説を書けないんだとか。レジを打っている瞬間にアイディアが浮かび、メモを取って作品を書くのだとか。

このラジオ番組でお話しをする村田沙耶香さんの声や話し方、いまだコンビニで働き続けるという健全的な生活の雰囲気に好感を抱き、しばらくして書店でこの本を目にした際に思わず買ってしまいました。

しかし、いい意味でこれは裏切られることになります。

村田沙耶香氏 hon.bunshun.jpより

この小説の主人公である古倉恵子さんは、子供の頃から普通の人とは違う感性を持った人物で、しばし周囲に衝撃を与え、奇異な存在と認識されながら成長します。家族は彼女が「どうすれば『治る』のかしら」と思い、カウンセリングなども受けさせたりもしますが本人は、「自分は何かを修正しなければならないのだなあ」と思いはするものの、どこを変えればいいのかわかりません。

そんな古倉さんは、大学1年生の時に始めたコンビニのバイト始めます。彼女にとってこのすべてがマニュアル化されたコンビニこそが自信が正常な人間になれる場所であり、その外ではどうすれば普通の人間として振る舞う方法が分かりませんでした。大学を卒業して36歳になるまでずっとコンビニのアルバイトを続け、恋愛経験もない彼女。周りは好奇な目で「なぜずっとバイトなのか?」「なぜ恋愛や結婚をしないのか?」などと質問されるようになります。なんとか怪しまれないような答えを繕って凌ぐ古倉さんですが、ある時転機が訪れます。

私はこの小説の主人公の古倉さんほどではありませんが、よく人から変わっているといわれます。子供の頃からそうで、けっこういじめられたりもしました。子供の頃はそれでも迷惑は無いのですが、大人になるとそうもいきません。自分の行動や選択は明らに常識からは逸脱している。そう自覚し、自分が憎くて仕方が無くなることもありました。

27歳から大学に通いはじめましたのでアルバイトの面接ですら「あなたの履歴書おかしいよね?何があったの?」とか、一緒に仕事をしている人にも「この歳で大学に入るなんて、病気でもしてたの?」と聞かれました。

この世の中は周りと違う経歴の持ち主に対して不信感を募らせます。

話を小説に戻します。題名が『コンビニ人間』から分かるように、主人公は常にコンビニのことが頭から離れず、他の場所に居ても店の状況を想像し把握して円滑に仕事が進むように祈っています。完全に信仰の対象のようになって、依存しきっています。それが周りから狂気じみて見え、気味悪がられます。

彼女は「コンビニは強制的に正常化される場所」と認識しており、これは神道の祓いの考え方と似ているようにも思えます。

作家仲間から〈クレイジー紗耶香〉と呼ばれる村田沙耶香さん。

「僕らの時代」というテレビ番組に出演した際、「どんな人と結婚したい?」という質問に対して「(あたしと)一緒にいても壊れてしまわない人がいい」と村田さん。

「結構今まで壊れてきているっていうか?」との返しに「うん、壊れてしまう人とか、多かったので、壊れない人が・・・」(中略)「うん、だから、病んでる、あたし病んでるから、相手がおかしくなっちゃうのかも」と村田さん。(検索すればこの動画はみつかるかと思います)

村田さん流石です。普通じゃないってやっぱり素晴らしいことだと思います。

 





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