生きる価値を見出し難い時代に 故・佐藤泰志 原作の映画「函館4部作について」

少し前にオーバー・フェンスという映画をDVDで観ました。

あらすじは、離婚して仕事を辞めて東京から故郷である函館に戻ってきた男性が、職業訓練校に入校し、大工さんになる訓練を受けるというものです。ある日彼は、鳥になるのが夢だという変わった女性に出会います。

心にどこか大きな傷を抱えている二人は互いに惹かれあいつつも、様々な葛藤に煩わされ、感情と感情をぶつけ合い、人生におけるもう一歩先へと進みだすという感じの映画でした。

主演はオダギリジョーさんと、蒼井優さんです。

私の印象ではなんだか爽やかな終わり方だった気がしたのですが、エンドロールに入ると「あれ!?原作が佐藤泰志だ」と気が付きました。なんか分かるような気がする。でもこんなに爽やかな終わり方に少し違和感を覚えました。

私が佐藤泰志さんを知ったのは『海炭市叙景』という映画のポスターを見た時のことです。大学の建物の掲示板か何かに貼ってありました。というのも佐藤さんは私の母校出身で、作家として何度も芥川賞候補に上がるものの、ついに日の目をみることなく、平成2年(1990)に自ら命を絶ってしまわれたということ。

ポスターの写真は凾館山の朝焼けだか夕焼けの、荘厳でありつつもどこか暗く、どこか寂し気な風景でした。ピンときてジャケ買いのような感覚で大学の生協で原作の『海炭市叙景』の文庫本を購入。「この映画は絶対に面白そう。原作を読んでから観てみよう。」と心に決めて読んでみましたが、何とも悲しい話が続く短編集でした。映画の内容はだいたい原作どおりだったと思います。

リストラ、貧困、自殺、家庭内暴力、不倫。簡単に言えば短い言葉で片付いてしまいますが、様々な悩みや苦しみを抱え、大切なものが壊れてしまったり、失ってしまった人たち。それでもみんな同じ一つの街に住んでいるという不思議な安心を感じさせる映画でした。

佐藤泰志さんの作品は、それまで絶版になっていて一部の人にしか知られていなかったようです。しかしこの『海炭市叙景』という映画で、佐藤泰志さんの再評価が進んだそうです。以下は映画の実行委員長の文です。

 2008年の夏、「海炭市叙景」をはじめて読みました。「函館」とおぼしき街「海炭市」を舞台に綴られた18の掌編は、20年前の小説とはとても思えないほどリア ルに今の時代を感じさせました。そこには私の隣人や友人、そして私自身が描かれていました。まるで函館の街の息遣いが聞こえてくるようでした。疲弊した地方の街で「生きる意味」を懸命に見出そうとする人々の姿を描くことは、同じような

3地方の街で生きる人たちに、ささやかだけれどかけがえのない「希望」を感じてもらうことのできる、普遍的なテーマだと思います。函館が生んだ作家・佐藤泰志の「海炭市叙景」の映画化を、市民映画として2010年2月に映画化するため、私たちはその一歩を踏み出しました。(映画「海炭市叙景」制作にあたって 実行委員長 菅原和博氏 映画「海炭市叙景」公式サイトより)

 

地元市民の有志によって映画の製作実行委員会が設立されたようでして、市民の方が多くエキストラとして出演されているということです。

佐藤さんの描く海炭市での出来事は、今から28年も昔の函館を舞台にした映画ですが、確かに、この頃函館に漂っていた閉塞感、疲弊してゆく社会において人として如何に生き続けるかという問題は、今の時代に通じるものがあります。なので、これまで公開された映画がすべて現代を舞台に描かれていても全く違和感がありません。

佐藤泰志さんの作品の映画化の取り組みは10年前に始まり、現在3つの作品が映画化されました。

映画化2作目は『そこのみにて光輝く』という作品です。綾野剛さんと、池脇千鶴さんが主演です。内容は、どうしようもない貧困と病に苦しめられ家族を支える女性と、生きる目的を失った男が出会い恋をするというものですが、この千夏という女性の運命は過酷すぎるのです。本当に可哀そうで可哀そうで、この映画の試写会では芸人の友近さん、アジアンの馬場園さんが涙が止まらなかったようです。

2014年に公開された「そこのみにて光輝く」は、綾野剛と池脇千鶴主演の映画。貧困層の生活を背景に、生きる目的を失った男と愛を諦めた女が幸せをつかもうともがく姿を描き出す。上映後のトークショーが始まったとき、友近と馬場園は「こんなひと握りの幸せも手に入らないのかと思うと……」「画面に入っていって助けてあげたい」と、目を真っ赤に泣き腫らしていた。(映画ナタリーより)

劇中で高橋和也さんが演じる男が、千夏の幸せを阻んでいくのですが、友近さんと馬場園さんは「大っ嫌い!」「会ったら蹴り飛ばしたい!」と憎悪をむき出しにしていたようです。

『そこのみにて光輝く』と、以前このブログにて紹介した『きみはいい子』はともに呉美穂氏の監督作品でした。『きみはいい子』では池脇さんと高橋さんが仲の良い夫婦の役となったので、なんだか救われた気がして嬉しく思いました。

3作目は冒頭で紹介しました『オーバー・フェンス』です。

そして4作目『きみの鳥はうたえる』が今年9月1日から公開が開始されるとのことです。

佐藤泰志氏の原作をもとにした映画は、楽しい映画とはいえないかもしれませんが、こういった映画をおススメする理由は、困難に苛まれても必死にもがいて生きてゆく人間の姿から感動をもらうことができるからです。

タイトルにありましたように、「生きる価値を見出し難い」と感じる人が多くなっているのが今の時代です。

幸せを感じることができない。未来に希望が持てない。消えてしまいたい。と思うことは私もたまにあります。

佐藤泰志さんの作品は、それでも一縷の望みを明日に繋げて生きていこうと思わせてくれるのではないかと思います。





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